車やバイクなどに搭載されているバッテリーは、長年使っていたり、一度でもバッテリー上がりを経験してしまうと、過放電によるサルフェーションという現象によって、バッテリーの性能(電気の流れやすさ、パワーの強さ)が著しく低下してしまいます。
一般的には、このように性能が低下したバッテリーによるアクシデントを防ぐためのメンテナンス方法は「新品のバッテリーに交換する」のが主流でした。
ここで知っておいてほしいことは、パルス充電方式という充電方法を採用した特殊な充電器を使えば、自分でもサルフェーションの進んだ中古バッテリーの性能を回復させる(サルフェーションを除去する)ことができるということです。
そこで今回は、バッテリーの性能を低下させるサルフェーションの除去機能(パルス充電機能)がついたバッテリー充電器を使って、本当にバッテリーの性能が再生回復するのか、バッテリーの性能を表すCCA値なども測定ながら検証していきたいと思います。
再生バッテリーを作るために必要な物
まずはじめに、性能が劣化した中古バッテリーのサルフェーションを除去した再生バッテリーを作っていくために必要な物についてお話していきます。
中古のバッテリー
はじめに準備するのは、ある程度劣化が進んだ中古バッテリーです。
バッテリーの劣化具合を知るためにはCCA値を測定すれば良く、後ほど紹介するCCAテスターを使って簡単に測定することができます。
※デジカメの仕様上、CCAテスターの数値がうまく撮影できていません。
ちなみに、CCAとはコールドクランキングアンペアの略で、鉛バッテリーが持つ固有の「性能基準値」のことで、「-18℃±1℃の温度で放電し、30秒目の電圧が7.2V以上となるように定められた放電電流」と定義されています。
例えば、CCAが480Aのバッテリーとは、マイナス18℃で480CCAの定電流放電を30秒間行っても、7.2V以上の端子電圧を維持できるバッテリーであるという意味で、このCCA値が大きければ大きいほどバッテリーの性能が高いということになります。
まぁ、難しいことは考えず、サルフェーションなどによってバッテリーの性能が劣化すると、このCCA値が小さくなってしまうということを知っておけばいいと思います。
今回準備したバッテリーのCCAの新品時の値(設計値)は480Aに対して、現在(充電前)の値は○○A(◯%)ですので、かなりバッテリーの性能が落ちており、バッテリー内部ではサルフェーションが発生しているものと考えられます。
今回はこの劣化した中古の鉛バッテリー(メンテナンスフリーのもの)をパルス充電して、どのくらいまで性能が回復するのかを確認していきたいと思います。
バッテリー充電器
次に必要なものは、バッテリー充電器です。
前のページでお話したとおり、バッテリーの性能劣化を引き起こすサルフェーションを除去するためにはサルフェーション除去機能(パルス充電)ができるものを利用する必要があります。
今回私が準備したのは、バッテリーのサルフェーション除去機能に定評のあるOMEGA PRO OP-0002というバッテリー充電器です。(「ACDelco AD-0002」のOEM品です。)
ネットショップなどで13000円程度という安さで購入できるにも関わらず、幅広いバッテリーに対してパルス充電によるサルフェーション除去ができる優れものです。
基本的には、バッテリーに端子を繋いでスイッチを入れれば通常充電の中にパルス充電も行ってくれる仕組みになっているのですが、手動(メンテナンスモード)でパルス充電だけを行うことも可能です。
一般的な充電器の場合、バッテリーの劣化がかなり進んでしまったものを充電しようと思ってもエラー表示の充電不可になってしまうのですが、この充電器の場合は、先ほどお話したメンテナンスモードを使えば、そのようなバッテリーに対してもサルフェーション除去を試すことができ、うまくバッテリーの性能が戻ってきた場合は、通常の充電を行っていくことも可能です。
私の印象では、一般的な鉛バッテリーであれば、物理的な破損(電極が割れている、電解水がないなど・・・)がない限り、かなり劣化してしまったバッテリーでもそこそこの確率で再生することができるという印象です。
ここで注意してほしいことは、ネット検索してもらうと分かる通り、5000円ぐらいからサルフェーション除去機能を謳ったバッテリーチャージャーがたくさん売られています。
ですが、対応バッテリーの種類(AGMやオプティマ、ディープサイクルなど)や容量の大きさ(Ahの値)が限定されていたり、サルフェーション除去機能がイマイチで性能の戻りが悪かったりすることもありますので、初めてサルフェーション除去を目的としてバッテリーチャージャーを購入する場合、「OMEGA PRO OP-0002」や「ACDelco AD-0002」といった性能や操作性に定評のあるものを選んでおいた方がいいと思います。
なお、一般的なホームセンターなどで売られているバッテリー充電器にはサルフェーションを除去できるパルス充電機能がついていないことがほとんどですので、ご注意を。
CCAテスター
CCAテスターは再生バッテリーを作るために必須ではありませんが、パルス充電の結果、本当にバッテリーの性能が回復したのかを確かめるために使います。
バッテリーの状態を確認するためには一般的なテスターなどで電圧を測ることが多いのですが、電圧だけではバッテリーの状態を正しく把握することができません。
電気の流れを水が流れる滝に例えるなら、滝の高さが「電圧」であり、その滝を流れる滝の幅が「CCA値」という感じです。
出典)トロント&ナイアガラの滝|H.I.S
いくら滝の高さ(電圧)が高くても、滝の幅が狭かったりすると、滝を流れる水に力はありません(CCA値が小さい)が、ナイアガラの滝のように高さに加えて壮大な幅がある場合は、その水の流れに大きなエネルギーを感じる(CCA値が大きい)ことができますね。
サルフェーションが進んでバッテリーの性能が落ちるという状態は、滝の高さ(電圧)は同じまま、この滝の幅が狭くなってきて電気がうまく流れなくなるというようなイメージをもってもらうといいでしょう。
ネットショップなどで5000円ぐらいで購入できますので、本当にバッテリーが再生したのか確認したい方は、このCCAテスターも使ってみると面白いと思いますよ。
再生バッテリーを作るための具体的な充電方法
ここからは、再生バッテリーを作るための具体的な充電方法についてお話していきます。
バッテリーチャージャーの使い方は簡単で、バッテリーにバッテリージャージャーのクリップ端子を接続して充電開始ボタンを押すだけで、後は自動的にバッテリーに充電が行われ、表示モニターに「FUL」という表示が出れば充電完了です。
今回は実験のためにバッテリーを車から取り出して充電をかけていますが、バッテリーを車に取り付けた状態でも充電することは可能です。
一昔前のバッテリーの充電というと、ちょっと充電電圧や充電時間を間違えたりすると充電のしすぎ(過充電)でバッテリーから泡が吹いてきたりしたので、一時もバッテリーから目が離せな買ったという印象がありますが、このバッテリーチャージャーは、そんな心配もなく、自動で安全にバッテリーをチャージしてくれます。
気になる自動充電後(約2時間)のCCAの値は、以下の通り。
- カタログ値;480A
- 自動充電前;288A(59%)
- 自動充電後;318A(65%)
こんな感じで、CCAの値が若干回復してきているのがわかると思います。
「たったこれだけしか回復しないの?」と思うかもしれませんが、ホームセンターなどで売られているような普通の充電器を使って充電したことのある人なら分かるのですが、普通の充電器で充電しただけではこの数値はこんなにも変わることはありりません。
なので、ディーラーやガソリンスタンド、JAFを呼んだ時などに、「バッテリーを上げてしまったりした場合は充電しても性能がもとには戻らない(固着したサルフェーションはもとに戻らない)ので、新品に交換しておいたほうが安心ですよ~」と言われるわけです。
こうやって少しでも回復してくるというのは、実はすごいことなんだという認識を持ってもらえればと思います。
追加メンテナンスモードでCCA値は改善するか?
ここで、「もう少しCCA値を改善していくことはできないのだろうか?」という疑問を持っている人のために、この実験の後、手動でパルス充電のみを行うことができる「メンテナンスモード(MM)」を実施してみました。
その結果がこちら。
- 自動充電後;318A
- MM実行後(1回目);317A
結果的には、満充電状態からメンテナンスモード(MM)でパルス充電を行ったとしても、変化が見られないということが分かります。
説明書にも書いて有ることなのですが、メンテナンスモードはバッテリーをバッテリーチャージャーに接続した時にエラーになるぐらい電圧が低いものに対して、なんとかサルフェーションの除去でバッテリーの復活を期待する時に使うモードなので、満充電の状態で使っても意味がないということです。
どうすれば更にCCA値を改善することができるのか?
実は、このバッテリーチャージャーのすごいとことは、バッテリージャージャーをバッテリーに接続した状態にしておくと、バッテリーの電圧が下がったタイミングで、自動的にパルス充電をかけてくれるという機能があります。
それが先程もお見せした充電パターンのステージ4(一番右側)に当たるところになるわけなのですが、こんな感じでバッテリーを車に載せたままバッテリーチャージャーを接続しておくと、充電がかけられるタイミングになったら自動的にパルス充電を行ってくれます。
※アースが簡単に取れる車の構造の場合は、マイナスクリップをエンジンやボディなどの金属部に接続してください。
私の車についているバッテリーは、新車の時から搭載されているもの(2003年)なのでもう14年選手なのですが、最終的にはCCA値が358(75%)まで回復してきました。
元々のCCA値が288(59%)の時は、エンジンを始動させるときのセルモーターが弱々しく、エンジンが始動するまでの時間も長かったので、エンジンがかかるかどうか不安になるようなレベルだったのですが、バッテリー再生後のCCA値が358(75%)の状態だと、セルも勢い良く回り、エンジンもすぐにかかるようになりました。
このようにバッテリーチャージャーで自動パルス充電をひたすらに続けていれば、バッテリーが極端に古いもの、物理的に破損しているものでなければ、結構なレベルにまでバッテリーの性能を改善(物によってはCCA値90%以上も可能)していくことができます。
ただし、バッテリーによって再生するかどうかはばらつきがありますし、家庭用のパルス充電機なので、再生するまでに結構な期間、バッテリーチャージャーを繋ぎっぱなしにしたままにしておかなければならないなどデメリットがあることも事実ですので、ご参考まで。
最後に一言
今回は、【パルス充電器】車などのバッテリー性能をDIY再生させる方法についてお話しました。
バッテリーの経年劣化は、過放電によるサルフェーションによる性能低下がほとんどで、バッテリーのパーツが物理的に破損していなければ、パルス充電器でバッテリーの寿命を伸ばすことができます。
特に輸入車などの場合、純正バッテリーをディーラーなどで交換しようと思うと5~10万円ほどかかってしまうこともあるため、このようなサルフェーション除去機能がついた充電器を持っておくといいと思います。
ただし、サルフェーション除去の方法はパルス充電以外にも、添加剤の投入や定期的な補充電でも可能ですので、その辺りのことを知りたい場合は、こちらの記事が参考になると思います。
とはいっても、日本車のバッテリー場合は、新品の半額以下で手に入る再生バッテリーが豊富にありますし、それを利用していくのであればこのような充電器までは必要ないかもしれません。
どういう風にバッテリーと付き合っていくかは人それぞれだと思いますので、この記事はその参考にでもしていただければと思います。
それでは!